「はい、こちら2020東京五輪」(最新:第三章その三)

■「初めて読まれる方へ」<これまでのあらすじと今後の展開>■
【以前中堅の広告代理店「くろくま広告社」で働いていた僕は、商学部出身の船橋君とは同期入社組で、後に美大の後輩である毒舌家の安藤も入社した。彼とは学生時代からなんとなく馬があう仲である。船橋君は会長の一人娘美智子さんと結婚し事実上の婿殿的存在。美智子さんは前会長の跡を継ぎ、船橋君は代表権のないCEOとなった。僕はその夫妻の娘みどり君の初恋の対象になった。当然、巷的にいえば不倫となるが、そんなどうでもいい噂など気にしてはいられない。こう見ても僕は立派な?家庭人なのだ。イケメン系だけれども、野猿系の妻恵理子と同じく野猿系の一人娘であるメタボリックな千鶴がいる以上は不道徳な事は出来ない。だが、プラトニックな淡い恋は誰にも渡すわけにはいかないし、公言するわけにもいかない。ましてや、親と子の年齢差がある恋沙汰などできるわけがない。といっても、恋は恋。透明な慕情は失いたくはない。みどり君は大学を卒業し、都庁に就職した。だが、将来はくろくま広告社の音頭をとることにはなるのだろう。その時までの修業なのかもしれない。千鶴は大学に行かずJSCの非正規社員で働き出した。妻の恵理子はガンを患い、僕はその日から作家を目指し、ボランティアをしながら細々と努力をしている毎日。そんなとき、東京都が2020夏季五輪の招致都市に選ばれた。「くろくま広告社」は五輪関連の仕事は来ないが、知人のアートディレクターとは付き合いが深い。招致が決まって上手く行くと思いきや、五輪での運営側の問題が深刻になってきた。今後どうなるのか。固唾をのんで見守りながら良い方法をと、僕と船橋と安藤がドキュメンタリータッチで話を進めていく・・・・・・】






「はい、こちら2020東京五輪」




第一章 透明慕情(プロローグ)


<登場人物>

・僕:中山正輝
・僕の妻:恵理子(野猿系)
・僕の長女:千鶴(野猿系)
・同僚:船橋真吾(イケメン系:代表権のないくろくま広告社社長)
・船橋くんの妻:美智子夫人(ハイソ系:くろくま広告社会長<実質的な経営者>)
・船橋くんの娘:絶世の美女:みどり君
・銀座マネキン嬢(昼は銀座通りのマネキン嬢、夜は銀座のサロン嬢:ユキ、ナオミ、サトミ、ミキ他。全員国立大出身のインテリ)
・安土城天守閣での時空を超えた歴史上の人物の面々。
・美大の後輩:安藤(アートディレクター、ソラミミスト:今東光似の毒舌家)
・くろくま広告社元会長:広瀬弘文(美智子夫人の父)
・銀座の若旦那衆他
・霞ヶ関官僚、国会議員他
・その他随増殖・・・


<第一章:その一>


 みどり君が都内の私立中学に入って以来、毎朝、駅ではいつも一緒になる。エリートの舟橋君と僕は勤務先では同期入社でもある。彼とは銀座の広告代理店までは通勤が一緒になる。しかし近々彼は役員にともっぱらの噂だ。彼との電車通勤も、そろそろお別れのようである。そういう縁があって、千鶴と彼の長女みどり君も、四谷の学校では中学から同じである。娘の千鶴も、みどり君とは朝の時間帯だけは一緒になる。
 まだ、午前六時台というのに、駅の中はいつも混みあっている。同じ発車時間と同じ白線の位置。通勤・通学客で駅のホームでは大抵、いつもと同じ顔ぶれになる。
 電車を待つ間、乗降客とは別段話をするわけでもない。今日はどうも気が乗らない。体の調子も悪そうだし、仕事を休みたい。勝手にそう思いはじめている。僕の性悪な癖は直りそうもない。そうこう思い込んでいるうちに、仮病のつもりがほんとに体調も悪くなってくる。悲哀や哀愁を放つプラットホームの人の波。僕は駅でそれを肌で感じとる。僕はその人たちと不安な時代を泳いでいる。僕は妙に思い込みが強いようだ。千鶴や妻恵理子にも言われる。僕は大人びた人間を見ると、うらやましく思える。よくもまぁ、年齢不相応な中年になったものだ。おまけに風変わりなご主人様ときている。それは今に始まったことではない。妻はそれを承知で僕と一緒になったのだ。世間が厳しいことを知らない純情無垢な貧乏画学生を口説き落として、親との縁を切ったほどだから、妻も引くに引けないのである。貧乏なくせに生活感がまったくないと見られている。そこが気に入られたのだろう。いわゆるせこせこしていない。おおらか。悪く言えばいい加減で存在感がない。しかし母性本能をくすぐる。癒し系。未だに彼女は実家の両親とは仲が悪い。近頃僕は開き直ったせいもある。内心とは裏腹に、僕の表情はノー天気に見えるようだ。最近、彼女たちが僕に腹が立つのも理解できるようになった。
 すみません、ちょっと火を貸していただけませんでしょうか、などと、プラットホームの指定された喫煙所で煙草をふかす。煙を見る一瞬は、僕には至福の時なのである。同じような人を見ていると、僕は何となくホッとしている。 嫌煙者の怖い視線は、青いレーザービームのように思える。それが肩身の狭い喫煙者との間に沈黙のわだかまりを生んでいる。家では禁煙宣言をして三年にもなる。家で彼女たちと顔を合わすときは、喫煙のきの字も表には出さない。表向き意志の固い主人さまのようだ。だが、彼女たちには、喫煙の罪状がばれているかもしれない。言葉の節々で勘ぐっている様子が顕著になっているからである。それでも僕はしらを切る。今では臭いのしない軽いタバコが流行っている。外で吸い過ぎたときは、臭い消しのためによく居酒屋に行き、焼鳥やニンニク入りの料理をよくつまむ。彼らは僕らを罪人の群れとでも言いたげである。人の目をはばかる喫煙者同士には、妙な連帯感が発生する。僕はその真っ只中にいる。そういう緊張感を僕は意外と楽しんでいるのである。


<第一章:その二>


 単純な話なのだが、プラットホームは僕にとって一日のスタートラインになっている。彼らの表情には疲れた生活感がある。僕にはその哀愁がなんとなく安堵感につながるのである。
 私服通学のみどり君は、中学入学時から僕とは顔なじみで、思春期の身体の変化が手に取るように伝わってくる。余計なお世話だが、みどり君の家ではもうお赤飯でお祝いでもしたのだろうかとか、男友達は出来たのだろうかとか、勉強やクラブはうまくやっているだろうかとか、僕は彼女の事が気になっている。みどり君はもう高校生になった。時が経つのは早いものである。
 舟橋真吾君と僕は同期ではあるが、今では彼は雲上の人となった。だが、仕事を離れればごく普通のつき合いである。入社してからは、もうかれこれ二十年近くにもなる。化粧品会社でエリートの彼は、もはや最高責任者へ手の届く位置にある。彼の細君は会長の姪にあたり、将来は約束されたようなものである。次期社長の椅子は彼のすぐ目の前にある。派閥争いにも勝利した模様だ。明らかに社内の中では、彼への嫉妬心が膨らんでいる。近々舟橋君も社長になったら、運転手つきの車で通勤するのだろう。そういう噂も多く流れるようになった。
 だが、僕だって負けてはいられない。肩ひじ張ったつもりで、目下窓際族のエリートと意気がってはいる。自然な立ち回りを装っても、決して自然体ではない。だから、いつもやることなすことが、空回りをしている。自分自身が面白おかしく見えることがある。しかし正直言って、僕は時折心もとない。以前、会長の秘書と仲良くなったはずみで、彼の機嫌を損ねてしまったのだ。おそらく会長は自分の女に悪い虫がついたと、勘ぐってでもいたのだろう。会長に睨まれた僕は後がない。僕は悪い虫がどっちかわからないまま、次の日には早速、営業部から資料室へと栄転させられた。たしか舟橋君も、その美人秘書とは仲が良かったはずである。
 銀座の某所で時折、二人が密会しているところを篠山が見ている。舟橋君は以前からプライドが高い。自分からは悩みを人に打ち明ける等ということはなかった。だが、最近は弱音を吐くようになってきた。僕はいつも聞き役である。実質的に、彼は婿養子のようなものである。眼に見えないところで、美智子夫人の手のひらで踊っている。そういう鬱積が時折僕に向けられる。 
 下手をすれば、舟橋君もそのうち、社長抜擢どころか、社内ではお蔵入りとなるかも知れない。仕事上の地位など一寸先は闇なのである。舟橋君は細君にはまだバレてはいないから、しばらくは安泰だろう。しかし、油断は禁物である。貞淑で潔癖症であるかれの細君は、女帝になれる資格は充分である。気まずいことが発覚すれば、舟橋君の命は危うい。これでも、互いに同じ年ごろの娘を持つ親なのである。十代の少年が急に三十年後に飛来したような不思議な感覚を抱くことがある。初恋の味がなつかしい。でも、また味わえそうな、そうでもないような、不安も存在している。みどり君に対して、十代のような清純で不安定な自分になれるだろうか。ふわふわとした涼しい空気が体の中を突き通した。背筋にもぐんと力が入ってくる。
 資料室は、以前から妖怪の凄む動物園と名を馳せていたところである。完全に本流から外れた仲間たちは、意外と面白いキャラクターばかりである。これじゃ、みんな使い物にならないだろうなぁ、と以前から思っていた僕も、いざ来てみるとやっぱりそう思ってしまう。自分のことも含めて。
 資料室は二十人もの所帯だが、毎日結構楽しくやっている。何処で勘違いをされたか今もって僕には分からないが、資料室のスタッフたちは、みんな自分は特別な存在だと思っているらしい。資料室特有の暗い影などみじんも感じないのである。鬱病になるどころかいつも過激な躁状態で、関連会社の社員には、時折華の営業部隊と間違えられることもある。確かに自己陶酔と個性の強すぎる集まりだから、一般社員たちからも煙たがられてはいる。一般社員のみんなは、腫れ物には触らないように、エサをあげないように、という視線を送ってくる。でも僕にとっては快適な場所なのである。
 出勤簿は判を押すだけ。タイムカードはなしで、自己申告。日中の資料集めは何処へ行っても自由。そのまま理由をつけて、競馬、競輪や映画、パチンコなどにいき、資料探しだといって嘘の連絡をしても、立派な仕事になる。つまり、彼らに言わせれば自由な部署ということになる。資料室の男女の比率は半々位である。女はみんな独身で、男との噂はこれまで皆無だという。部署の男達は彼女たちをあっ、女の子だ、などと絶対認めようとしない。二十代や三十代までの濃すぎる化粧までは、まだ許せる。しかし、その上の熟女となると男達は皆恐怖におののく。


<第一章:その三>


 彼女たちの化身した形相と、年期の入った縮れた髪。若い人向けのアイシャドウや茶髪などの真似をする。やめておけばいいものを、そのほうがいいよ絶対に、という視線は男達の間では挨拶代わりになっている。そういう面では結構気をつかうが、あとは余計な気は一切使わない。社交辞令でも褒め言葉などは吐いてはいけない。異性とみてはいけないのである。各自が自分の身を守るために。そういう無言の掟があった。間違って出そうものなら、たぶん生きて家へは帰れない。
 男たちは半数は既婚だが、長続きしているのは僕と篠山だけである。ほとんどがバツ一からバツ三のうちに入る。資料室の世代は二十代から五十代で幅がある。仕事がヒマな上に気楽な毎日は、遊び人風な僕をさらに勢いづけている。妻には広報室で采配を振るっていると嘘をついている。総務部で刷り上がった名刺を、勝手に作り替えて妻には立派にみせる。そういう小心さで、僕はかろうじて、心身のバランスを取っているのである。
 みどり君のあどけなかった顔と身体が、少しずつ少女から大人の女へと変わっている。その過程を垣間見るのは僕だけの、楽しみの一つになっている。
 美貌と知性を持ったみどり君には、早く妖気な女へ脱しようとする焦りを感じることがある。僕と彼女とは中学入試の試験日で初めて顔を合わせた。僕は年甲斐もなく、あどけない少女に妙にわくわくしていたものである。妻などにはそんなことは言えるわけがない。ロリコン趣味だと罵倒されるのがオチである。だが、僕のみどり君への慕情は、少しずつ芽生えつつある。
 みどり君も僕を意識しているのが分かるようになった。油断は大敵。好事魔多し。白昼の死角。少女への倒錯。僕はそんなことを、とめどなく歩きながら考える。
 僕はみどり君と視線をあわせると、彼女の心臓のなかに入っていくような、全てを許してもいいというような、雰囲気になってしまうのだ。軽はずみな男女の関係という意味ではない。素直な相手への想い。それだけである。初めてみどり君を見たとき、僕の気持ちの中では初恋のようなオアシスが、年甲斐もなく出来ていたのである。それはみどり君に対する僕の身勝手な、陶酔磁場であるには違いない。要するに僕は少女を見初めてしまったのである。みどり君もその時は、たしかそういう眼をしていた。あとで知ったことだが、みどり君の初恋の相手が僕だったのである。
 日頃みどり君とはあまり話し合うこともなく、時折学校の行事のとき、僕はみどり君に会えるというだけで、心が弾んでいた。文化祭では、みどり君の所属するマンドリン・ギター班をもう三年も聴いている。マンドリンの演奏もうまくなっていた。発表会前の編曲や曲選び・練習は大変らしい。妻と一緒に大講堂の席には座るが、僕はみどり君のことしか見えていない。妻に話しかけられても上の空である。みどり君とはいつもアイコンタクトで会話をする。最初のころはよく分からなかったが、近頃は目で分かるようになった。妻などそういうことは知る由もない。千鶴は器械体操班に所属している。妻は公開練習を見に行くといって中座したのにも全く気付いていない。軽く会釈をするだけなのに、僕はみどり君と秘密の世界を、共有している錯覚に陥ることがある。そんなことは死んでも人に話すわけにはいかない。自分の事は自分で悩むしかないのだ。少女への淡い想い。世間的に言うと近頃僕はかなり、アブナイおじさんになった様な気がする。僕にも同じ年頃の娘、千鶴がいるというのに。


<第一章:その四>


 みどり君と千鶴はプロテスタントの同じ学校に通っている。だが、どういう訳か、彼女と千鶴は当初からあまり仲は良くないようである。みどり君からは誘いの電話は度々あったのだが、千鶴のほうはその都度理由をつけて避けようとしている。これまで一緒に通学したことはない。男には分からない女の領分でもあるのだろう。たしか、中学入試ではみどり君はトップの配点での入学組のようである。中学の受験塾では、いつもベストテンに名を連ねていた。千鶴のほうはと言えば、目を覆いたくなるような成績で、塾の担任の話ではとても無理と言われていた。
 中学受験は競争が激しい。偏差値がべらぼうに高くても、それだけ、憧れの志望校に入りたい少女達が、周りには結構いるということなのだろう。受験前は火事場の馬鹿力と運を見方にするべく、妻と千鶴はよくげんを担いでいた。早朝、二人でよく散歩をしていたが、飼い犬を連れ添っている老夫婦のあとを付け、御犬様がウンチをこぼしたら汚れた運動靴でそれを踏む。よしこれで、少しはウンがつくわと、たわいもない事を朝の食事中に話すのである。そんな中では食事が咽を通るわけがない。そういうことが、受験一ヶ月前から始まっていた。その間僕は朝食抜きで、出勤する羽目になる。
 みどり君の父方は見た目は野獣系のようだ。母方は絶世の美女系である。舟橋君の奥方やみどり君をみればすぐ分かる。
 僕は四十代のニューハーフ系である。妻はどちらかといえば野猿系に入る。千鶴は僕の美形の遺伝子はあるものの、見た目は絶対に母親似で、家ではあまり女を感じることはない。母子共に少しは上品度が上がればいいのだが、いっこうに上がる気配はない。Jリーグの試合では二人はいつも顔中に絵の具を塗って周りのサポーターたちとよく出かける。僕がそのままでも結構さまになるようだよ、と冗談交じりに言うと、その日の僕は食事には絶対ありつけない。 
 そういう力関係も存在するので、最近言葉には気をつけている。千鶴はお転婆と男勝りを掛け合わせたような性格で、家の中はいつも騒々しいのである。妻もそれに輪をかけていつもじっとしていることがない。時折僕は、我が家はレンタル家族のような気がしてくる。
 千鶴はたぶん最低点での補欠組である。いまだに、みどり君にはかなりのコンプレックスをもっている。松竹梅の松の下というところか。親の方も多分無理をしてもやはり松の下辺りだろう。カエルの子はやっぱりカエルなのである。 
 あとは千鶴本人の突然変異を期待するしか道はない。舟橋君は梅の中ぐらいか。千鶴は他の志望していた学校では、全て不合格。仕方がないから近くの公立にでも、お世話になろうかと手続きしていたときだった。制服も用意するものも全てそろっていた。
 ところがその日の深夜に、みどり君の学校から連絡が入る。補欠の繰り上がりで対象になったので、中山正輝様のお嬢さんを是非当校へのご入学いかがですかと電話が入った。僕はよくあるイタズラの電話だと思い、もう結構ですからとガチャンと電話を切ってしまった。当時、嫌がらせや勧誘の電話がめっぽう多くなっていたときであったからである。僕も酩酊して帰宅したばかりだった。家族のみんなも完璧に諦めていた。
 風呂場から急いで電話に出ようと、裸のまま廊下を走ってきた千鶴は、僕を不審な男と見誤ったらしく、大声を隣中にだした。駆けつけた隣家の住人達も、目のやり場が無く、しばらく唖然と立ちすくんでいた。千鶴は陰毛や膨らみ始めたおっぱいなどを、隠す恥じらいなどはまったくない。それどころか自分は女じゃない、というような千鶴の立ち振る舞いに、さぞかし彼らは背筋が筋が寒くなっていたことだろう。
 僕も娘も少しは妻に似てきたな、と思うぐらいそっけなさを顔に出す。みどり君とは全く違うのである。僕は千鶴に急所を思いっきり蹴られた。僕は千鶴には深夜の電話に出たことを言いながら失神していた。千鶴は何で学校断わったのと泣きじゃくる。千鶴はその出来事以来、僕には他人行儀になっていた。生理がいつから始まったのかと、親として聞ける温和な家庭ではないのである。もし、そんなことを少しでも口になどしたら、必ず刑事事件が勃発する。翌日の朝刊の社会面ではしっかり名前が載るだろう。
 三日後、電話のあった学校から、入学手続きの書類が送られてきた。千鶴は、たしか父が入学を断ったのでは、と学校に確認したところ、僕が、それで結構です、と言ったというのである。
 私は勘違いをして、結構ですといったばっかりに、それまでは千鶴や妻と会話が途切れてしまっていた。魔の三日間。このときは日本語の深い曖昧さと有り難さが身にしみていた。
 なにはともあれ、千鶴は補欠だけれども、憧れの学校に入学できた。入れる確率がほとんどない位の学校に入れたのだ。
 みどり君と千鶴には、何処かに目に見えない女の確執が存在する。たまには駅までは一緒にと、僕も娘にせがまれることがある。ただし、条件付きである。千鶴は僕には何時も他人のふりをしてと言われる。話しかけてもいけない。千鶴は、一種風来坊のような、怪しい親父にはいつも辟易しているのである。僕を二代目寅さんとでも、学校でも言いふらしているようだ。みどり君もチラッと、そんなことを口を滑らしたことがある。義理と人情の様なものが娘でも少しはあったのだと、僕はただ喜んでばかりではいけないのである。駅についた途端、娘から内緒で臨時の小遣いをせがまれる。それに呼応する僕も僕である。
 バブリーで男勝りの我が娘に女を感じろと、いうのはどだい無理な話しなのである。千鶴に女の魅力を感じるまでは、かなり時間がかかりそうである。妻の恵理子もそう感じているはずだ。




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第二章 2020東京オリンピック開催決定


<登場人物>

・僕:中山正輝
・僕の妻:恵理子(野猿系)
・僕の長女:千鶴(野猿系)
・同僚:船橋真吾(イケメン系:代表権のないくろくま広告社社長)
・船橋くんの妻:美智子夫人(ハイソ系:くろくま広告社会長<実質的な経営者>)
・船橋くんの娘:絶世の美女:みどり君
・銀座マネキン嬢(昼は銀座通りのマネキン嬢、夜は銀座のサロン嬢:ユキ、ナオミ、サトミ、ミキ他。全員国立大出身のインテリ)
・安土城天守閣での時空を超えた歴史上の人物の面々。
・美大の後輩:安藤(アートディレクター、ソラミミスト:今東光似の毒舌家)
・くろくま広告社元会長:広瀬弘文(美智子夫人の父)
・銀座の若旦那衆他
・霞ヶ関官僚、国会議員他
・その他随増殖・・・



<第二章:その一>


 時が過ぎるのは早いものだ。船橋君の自慢の娘、みどり君は国立の女子大を首席で卒業し、わが娘の千鶴は大学を諦めて文科省の傘下の日本スポーツ振興センター(JSC)で働いている。みどり君は都庁に入り、2020東京オリンピック開催決定後、オリンピック準備委員会のメンバーとなり、日々忙しそうである。このところ、新国立競技場の建設費・デザイン、エンブレム盗作疑惑問題やらですったもんだしている様子だ。いまのところみどり君も冷静さを保ってはいる。が、いつ、フラストレーションが炸裂するかは分からない。千鶴だって、天下りの団体でこき使われ、不満たらたらの毎日なのだ。妻の恵理子は我関せずと、絵本作家のイバラの道を歩いている。船橋君は広告代理店の社長になり、僕は細ぼそと小説家を目指して、ボランティアをしながらの毎日だ。だから、我が家は、千鶴が生活の大黒柱となる。彼女の機嫌をそこねると家中大戦争となるのだ。船橋君は僕とはエンターテインメントへの志向が同じで、個人的なグルメの取材に誘ってくれている。貧乏人の僕にはありがたいことだ。妻恵理子は十年前に乳がんを患い、治療費も重くのしかかる。船橋君には時折温かい支援も受けているが、そのうち印税でも入ったら、思う存分恩にむくいたいところだ。まだまだ道は遠いが、継続こそ力なりと、自分には言い聞かせていいる。船橋君も励ましてくれるので嬉しくもなる。これは誰にも言えないことだが、銀座のマネキン嬢たちと会話する特技もあるので、悩んだときは彼女たちの助言をあおぐこともある。マネキン嬢が話すわけでもないのに。やはり、僕は正真正銘の変わり者なのだ。


<第二章:その二>


 大変なことになった。船橋君がトップである広告会社と取引のあるデザイン会社が、盗作疑惑で混乱しているらしい。彼のことだ。結構信義を重んじる性格で、誰に対しても面倒見がいいから、普段は絶対他言はしない。僕にもだ。だが、今回だけは、五輪のイベントと言う国際的なものだけに、無名の作家の僕にも相談には来る。言いたいことを何でも話し合える仲なのである。男同士の変な友情。今日は表参道のハワイアン・コーヒー店で待ち合わせた。この店に入ると、コーヒーの香りがするアロマの別世界だ。ほとんどがうら若き女性たちだ。こういう店はあまり人には紹介したくない。ハワイ通の船橋君の紹介なのだが、本場の良質のわき水を使ったコーヒーは格別である。店員さんも感じはいい。原宿には合っている。船橋君が来るまで、先にコーヒーを嗜む。息を切らしながら彼が来た。
「中山、千鶴お嬢ちゃんはどうした?みどりから聞いたんだが、JSC大変そうじゃん。エンブレム制作者の佐野君が盗作疑惑でさ。ベルギーの劇場からクレームが来ててね」
「それは、みんな知ってるよ・・・」
「彼の言うには僕は知らないが、スタッフがやったかも知れないので調査中。内部のものがやったにしても、全部僕の責任。でも、すぐ認めるといろいろと大変なので。船さんTV局に付き合ってよ~、って、さっき終わったところ」
「サントリーも大変そうだね~」
「良い解決方法でもあればねぇ、いいんだけどさ。スタッフの盗用認めたようだ。そうだ、おまえに頼みがある・・・」
「そうくると思ったよ・・・。相談してみる・・・」
僕が相談する相手とは・・・。あまり人には言えない。。。



<第二章:その三>


 このところ、みどり君が毎日タクシー帰りだという。JSCが文部科学省の下にあり、お互い不信感がたかまっているらしい。新国立競技場の計画でもすったもんだしているし、五輪のエンブレム盗用疑惑でベルギーのデザイナーがIOCに提訴したことから、差し止めになる公算が大きいというのだ。その劇場はベルギーの王室と関わり合いがあるという。ましてや、裁判はベルギー国内である。勝ち目はない。IOCでもベルギーに右ならいという可能性もある。見切り発車の五輪エンブレムは既に、大量のギャランティが発生し、オフィシャルスポンサーも企業広告で使っていることから、やり直しは、どういう影響を与えるか心配だ。五輪は大手の広告会社電通が窓口になっているらしい。そこの社員が五輪組織委員会のメンバーで、クリエイティブディレクターとしての地位である。にもかかわらず、窓口である彼が、佐野アートディレクターに発注。その佐野君に盗用疑惑が拡散。佐野君を採用した責任はクリエイティブディレクターにあるわけなのだが、いまだに釈明の会見はない。胴元の電通がするわけはないだろう。それだけ、広告の業界は魑魅魍魎としているのである。なんでもありの世界。だから、第三種郵便不正の企画を企業に出してしまう、モラルのない世界も確かに存在する。都庁の五輪準備委員会のスタッフであるみどり君は船橋君の一人娘なのだが、彼の細君は実質的に社の会長職であることから、日々多忙で帰宅してもいない時が多い。父である前会長の実家(吉祥寺の豪邸)から黒塗りの専用車で出社の毎日だからである。ということから、船橋君は社長でありながら決裁権は細君ということになる。だから、僕とは物理的な自由な時間はいくらでもある。要するに、細君のサポーター、入り婿のようなものだ。船橋君は大学では優秀だった。ぼくとは全く違う。だが、日々の苦労は僕のほうが優っている。と、僕はそう思わないと気負けする。しかし、生活感を一切人に与えない。50代になっても独身貴族に見られる所以である。本質的にはいわゆる負け犬の近吠えである。懐は大きいが気が弱すぎる。でも、なんでも体当たりで臨むから、はたから見れば、感動を与える得な性格なのだ。家計は苦しくても裕福に見られる。いや、そう言われれば、損な人間かも知れない。損な性格といえば、佐野君の方が上かも知れない。船橋くんから連絡が入った。月に二回は彼に誘われて、エンターテインメントレストランの取材に同行している。もうかれこれ、五年くらいになるから、かなりの数に上るが、彼と話していると楽しくもあり、時にはアドバイスもしてくれる。頼もしい元同僚(以前僕が働いていた広告会社)である。水道橋の東京ドームに行く途中、MLBカフェで落ち合う予定だ。以前は、ベースボールカフェといって、MLBびいきの日本人が経営していて、テレビでも紹介されたのだが、最近米国のMLBカフェという大リーグ専門のレストランになったばかりである。早い話、米国本土の直営店になった。最初のころは、大賑わいで評判だった以前とは違い冷たい雰囲気だったが、経営者側も察知したらしく、いまでは、以前と変わらない雰囲気で客足も上々のようである。MLBカフェガールズの人気も上がっている。サービスもよく、彼女たちもいつメジャー化するかわらない。



<第二章:その四>


 水道橋のMLBカフェに来る前に、銀座のマネキン嬢達と会ってきたが、彼女たちはみなインテリで、世の中へのコメンテイターとして僕には映ってくる。
「マッサン、こっちこっち・・・」
「ユキちゃんじゃないか。しばらくダネ。みんな元気?」
「元気は元気だけれど、みんなカラ元気なのよ」
「どうしてだい?」
「だってさ、2020年のオリンピックがねぇ。人間さまはどうしちゃったの?」
「ユキ、あまり人間には関わらないほうがええよ。あたいたちが、いくら言っても、むだやん。やめとき・・・」
「ナオミのゆう通りかもね。でも、言うだけならいいじゃん。表現の自由、言論の自由はマネキン嬢にもある・・・」
「そやそや、年金もな・・・」
「黒田総裁は月に50万ももらえるんだって?年収4000万円」
「あたいも欲しい、背も欲しい、男も欲しいし、夢も欲しい・・・」
「新国立どうしちゃたのかしらん。最初の案ではダメなの?」
「お金がかかりすぎるんだってさぁ・・・、サトミはどう思う?」
「あのね、東京ってさ、無機質な感じじゃん。そういうところに、あの、デザインは良いと思うよ。開閉式のスタジアムがアピールで成功したところもあるらしいから」
「でも白紙撤回だって・・・・」
「うっそー、信じらんない~~~~」
「電通・博報堂、役所、ゼネコンの利権が絡んでいるから、こういうことになるのよ」
「そうだ、そうだ、ソーダ―割・・・」
「つまんない、座布団もっていけ・・・・」
「そんな・・・。犬に向かって、てめぇら人間じゃねぇや、って言うのと同じよ・・・」「話がよくわかんない・・・・」
「ミキはいつも真面目ね。そういう子がいないと、このマネキン嬢の達の収拾がつかない、さすが、チーママ候補だね・・・」
「佐野五輪エンブレム、どう思う?」
「気持ち悪い」
「暗い」
「夢を感じない」
「希望が持てない」
「オリンピックとパラリンピックの差別化」
「配色がナチみたい」
「七色を使ったほうがいい」
「窓口の広告会社は今のエンブレムごり押しするしかない・・・」
「そりゃぁ、そうよ。莫大な損害賠償もからむしね。既成事実化を狙うしかない」
「つまり。その管理以下にあるマスコミは公表出来ないってことやね。こりゃ、世界から総スカンやないの・・・」
「エンブレムは全員参加で見直すべき。田中さんが最初から似ていたのは知っていたので、手直しをさせた発言は、利権がズブズブだって証明するようなものよ・・・。いまさら原案とはねぇ」
「そうだ、そうだ、ソーダー割・・・」
「もうええから、そのダジャレ、やめとき・・・」
「新国立、あたいは、ザハ案を支持します。あの流線型のデザインは世界でも例を見ない、画期的な建物になるはずよ。アーチの建築費は総額の一、二割で問題ないって。あとサブトラックの案も追加して欲しいわよね」
「サニブラウン頑張ったね。ガトリンもボルトも絶賛しているみたい」
「200mの銅の末次や5000&マラソンの銅の千葉真子は立派だった・・・」
「あらためて新国立競技場はオリンピックの聖地だといいたいし、陸上競技は原点なんだね。え、屋根を木造にする?冷房もつかないの?」
「信じらんなーい~」
「ミホの元彼は400mのイケメン選手だったのよ。病気で亡くなった・・・」
「人に言えない想いがあるわけね・・・・・」
「だから新国立は立派に作って欲しいわけよね。マッサン、あたいたちの想い分かってくれた?」
「わかった、わかった。船橋に伝えとくよ・・・、これからMLBカフェで落ち合うんだ」
僕は銀座通りを後にした。




<第二章:その五>


 船橋君とMLBカフェで落ち合う約束の時間が一時間を過ぎた。くろくま広告社の社長と併せて、東北の震災復興支援のNPO法人を仲間と立ち上げて四年目の彼のことだから、さぞかし忙しいのだろう。彼からメールが入り、中央線の武蔵境駅のロイヤルホストでの待ち合わせの変更が届いた。僕の美大の後輩で安藤というアートディレクターがいる。いま五輪エンブレムやパクリ問題で話題の佐野氏とは競合関係になる。安藤は今東光よろしくかなりの毒舌で、顔立ちは高倉健さんより目のつり上がりが激しく、歌舞伎町のそのスジの親分さんでもお辞儀をするくらいだから、当然電車に乗っても道を歩いても、堅気の人達は避けようとする。根は素直で純粋なのだが、我が強く正義感が強すぎて、話し相手はすぐ引いてしまう。彼は僕の後輩でもあり、当然良い奴だとは思っているのだが、話し出したら止まらない。案の定、悪い予感がしたと思ったら、四谷の駅で彼が乗車してきた。「おや、先輩やないですか。奇遇ですなぁ・・・」電車は満員なのに、彼がくると席がぽっかり2つ空いている。変な意味での役徳。まわりには席を譲るような人もいない。「先輩、五輪エンブレム、やっぱり、あれはあかん、ダメみたいですわ。素人でも作れるアホなエンブレム、なんで選ぶんやろな。あっちこっちとパクリまくってしょうもあらへんなぁ。招致エンブレム本番では使えん?そりゃ、せっしょうやで。IOCの規定?あんなん、言い訳や。早い話、招致エンブレムは無償で金にならへんさかい、広告代理店の利権で、企業に金を出させるために、公募の出来レースをしてしまったんやろ。それがパーになったんや。誰も責任を取らへんし。せっしょうな世の中やなぁ。企業もそうやけど、株主は黙っておらへんで。何百億、何千億もの金が組織委員会のふところに入っただけや。広告代理店にはモラルなどあらへんで。金が動けば何割かは自動的にはいる仕組みになってるさかい、問題が起ころうと起きまいと関係ないんや。それと、新国立競技場やけどな、これからコンペで2017年着工はどうみても無理やで。冷房がなくてどうするんや。冷房グッズをくばるんやと。アホとちゃうか。新国立はゼネコンが二、三年かけてマンションを建設するのとは、わけが違うんや。世界が見てるんやで。下手なことはでけへん。やっぱりザハはんの案でいいんちゃう?安倍ちゃんもコンペで約束したんちゃう?先輩はどうおもてんの・・・・」
「君の言うとおりだね。アーティストの生命線はなんといっても発案力だよ。ベルギーのデザイナーがプライドを、声だかにするのにもそれなりの理由があるんだよ。商標権など著作権の前では太刀打ちできない。佐野アートが誹謗中傷されても仕方がないでしょう。著作権利はまず実在する作品があれば、世界でただひとつのものとして認められる。他者の作品を使いたいというのなら、しっかり承諾を得て流用すれば盗用にはならない。マドンナがね、ハングアップという曲を大ヒットさせましたが、彼女はね、アバにギミーギミーギミーをベースに使わせて欲しいと、デモテープと親書を送り嘆願したと聞いている。佐野くんにはそういうプロ意識が欠けているのではないかとおもうね。アーティストは第一発案力が基本。「パクってません」、が今年の流行語になりそうな感じ。あと、電通・博報堂が介在しながら、この失態。日本の広告業界がガラパゴスしているのも確かにうなずける。審査委員には広告代理店の人間は入れないようにし、広く開放感のある人選にすべきだよ。再公募するにも、審査員の白紙撤回もすべき。芸大生がデザインした2020花柄招致エンブレムが、IOCの規定で本番には使えないという。ならば少し手直しをしてみればいいんだよ。オリンピックの商業主義志向は1980のロス五輪からはじまり、利権の温床になっているオリンピックイベントシステムも、曲がり角にきているのではないだろうか。新国立競技場の着工はおそらく2017年初頭。三年間で完成?君の言うとおり到底間に合わないよね。ゼネコン利権主導JV施工は最悪の結果になるかもしれない。建設費用だって3000億円は越えるでしょう。安倍くんは判断を誤った、と僕はみてるけどね。ザハ案なら十分間に合う。外圧が必要だ・・・」
「でおまっしゃろ・・・、やっぱ、先輩はうちより上やなぁ・・・」
安藤が大きな声で話すもんだから電車の周りも拍手喝采だ。
「あっ、武蔵境だ。こんど船橋君と一緒に会わないか」
「いいでっしゃろ、お待ちしてますよん」



<第二章:その六>


 船橋君と武蔵境のロイヤルホストで待ち合わせた。僕の学生時代では駅の周りは、イトーヨーカドーがあったくらいで、こじんまりとした感じだったが、昔からこのエリアには、パワースポット的な佇まいがある。いまでは、佳子様がお通いになる国際基督教大学、箱根駅伝で優勝した亜細亜大学や近くには」武蔵美や東京女子大などがあり、多摩の学生がお忍びで来る所ともいえた。僕は美大の貧乏学生で妻の恵理子は吉祥寺の不動産屋の娘で、東京女子大の可愛い子だった(当時はね)。僕の純潔を奪った張本人だから、いまでも彼女には貸しがあるのである。よくこの駅でデートをしたものだ。船橋君は早稲田の商学部出身で、美智子夫人(会長)は一橋大の才媛だった。武蔵境には船橋君・安藤・僕の三人にしか分からない、時空の扉がある。これはどの場所にあるかは僕たち三人の秘密だ。申し訳ないがブログの読者にも言えない、なぜならそこは僕らの神聖な世界の入り口だからだ。場所は言えない。どの時代と場所にタイムスリップするのかといえば、信長が建てた15世紀の安土城天守閣の大広間である。ここには、時空を超えて縦横無尽にお客としてやってくる楽しい宴の席が用意されている。そして、時折かれらもその扉を超えて21世紀にやってくるのだ。
「いやぁ、すまん、すまん。仙台のNPOの仲間から相談を受けてね。MLBカフェよくなったろう」
「前のベースボールカフェと同じ雰囲気になってよかったよ。経営者が変わると社風も変わるというが、店のスタイルは変えてはいけないよね、やっぱ。お客さんの誕生日祝なんか最高だね。ハードロックカフェの雰囲気も足した感じで・・・」
「今度は行こうよ・・・」
「そうだね。安藤がよろしくって・・・」
「あの、毒舌の・・・。俺のことも何を言われるか、戦線恐々だねぇ・・・」
「ま、そういわずにさ、悪気はないんだよ。僕の後輩だから今度あってよ」
「それは構わんが。千鶴くんはどうした?JSCも大変だろう・・・」
「みどり君も毎日帰りが遅いらしいね。エンブレム使用中止か・・・」
「しょうがないよ。あれだけ騒がれれば。誰も責任をとろうとしないからね・・・」
「戦犯が多すぎるよ・・・。どう思う?」
「招致エンブレムは震災復興と五輪の成功を祈ってのメモリアル的なデザインでいいと思うんだが、IOCの規定で使えないらしい」
「困ったもんだ」
「俺なりに戦犯者を絞ってみたんだが・・・。迷走2020東京五輪SOS!A級戦犯リストアップってね・・・・。早くスッキリさせて気持ちよく2020東京五輪を迎えたいが、なぜこうなったのか考察したい。

前回のロンドンの開会式セレモニーは、大会史上最も良くできたものだったよね。日本ではもし、それを超えるとしたら、日本人だけの力では到底無理だよ。招致に成功して国中が歓喜の舞におおわれたのもつかの間、どうして開催SOSという事態になったのか。
俺はもともとイスタンブールを推していたわけだが、どうして東京なのかわからなかった。決まったからには応援するのは当然としても、でもこここまでこじれるとは誰も予想はしていなかったね。唯一救われるのは、オリンピック開催受け入れがあと2つあること。
東京がダメでも、イスタンブール、マドリードがある。金満IOCがどんどん問題が噴出しても、東京を擁護する理由が分からない。クーベルタンの初心に帰る理念の元で判断するなら、当初のザハ案のスタジアムを支持するとか、招致エンブレムを使えるようにするとか、一切の五輪利権を排除するとかしないとだめだね。

<2020東京五輪をSOSにしたA級戦犯リスト>はこうだ。

●石原慎太郎:途中で逃げ出した。コンペまでいける元気はあったし、国政まで参加する余裕があったのだから、都知事の器ではない猪瀬氏に押しつけたのは間違いだった。
●安倍晋三:偽りのアンダーコントロール発言、ザハ案のスタジアムの推奨も白紙撤回した判断は間違いだった。森派閥であるから、利権とは繋がりがある、夫人は元電通マン。
●電通:もともとオリンピックイベントは庭のようなもので、多くの利権を手にしすぎているし、2020東京SOSを派生させた元凶的存在。マスコミの電波を支配している強みを悪用し、墓穴を掘ってしまった広告業界。
●大会組織委員会:森氏は辞任すべき。当初の案を変えずに押し通す考えもなかった。利権にも深く関与。遠藤五輪担当は子分的存在だから、コンプラドール(操り人形)。
●佐野氏:この人はグラフィックデザイナーであり、エンブレムデザインには向いていなかった。ロゴデザイナーは専門性があり、奥も深い。ベルギーの劇場のロゴの著作権にこだわるのは、それなりの理由があるのです。佐野氏にはディレクターの資格はない。今後はパクリデザイナーとしての独自の道を歩むしかない。
●文部科学省、JSC:官僚に任せては全てがダメになる先例を作ってしまった罪からは逃れられない。
●マスメディア:ただ情報を垂れ流す業界。
●IOC:統制が取れない金満体質になってしまった。
●田中氏:閉鎖的なエンブレム選考委員会委員長。多摩美の名前に泥を塗った人物。

といったところだ」
「ま、そんなところだろうね・・・」
僕と船橋君は相づちを打った。



<第二章:その七>



 僕と船橋君と安藤には三人だけの秘密がある。武蔵境の時空スポットである。そのスポットの先には、戦国の武将、織田信長の安土城天守閣大広間の宴席と繋がっている。そこには、時空を超えて様々な人が、気軽にやってくる。その時代での時事口論や言いたいことをやり合うというまさに、貴重な空間でもあるのだ。
<西暦1576年、信長主催の安土城での宴会にて>


「お屋形様、未来からの客人、英国人の座波殿でござる・・・」
「ハウドゥユゥドゥ、アーユゥキャプテンノブナガ?
「であるか・・・。人生五十年~~~~・・・・・」
「信長なら英語で話せよ、将軍なんだろう?」
「De aruka,jinnsei 50 nen・・・」
「ローマ字でだまそうなんてしょうがねぇなぁ・・・」
「わしゃぁ英語が苦手なのじゃ・・・、坊主通訳してくれ」
「アズチジョウ、カンセイオメデトウゴザイマス。ワタシノキールアーチ採用アリガトウ。未来ノニッポンデハ不評ナノデコノ時代にプレゼンシニキタシダイデス」
「デアルカ、未来のニッポンもショウガナイノウ・・・」
「坊さん、坊さん、ちょっと・・・・」
「てやんでぇ、てめぇは誰でぇ?この猿・・・・」
「羽柴筑前煮でござる・・・」
「筑前煮なんか食いたきゃねぇや・・・。毒まむしの娘、やっぱり濃姫がいい。。。男は嫌いじゃ・・・」
「ま、そういわずに・・・」
「であるか・・・。まぁよいわ。わしも最近未来のテレビ番組で出ずっぱりだったのでな・・・・。役者がわしを持ち回りで演じているので疲れるわい。あ~いそがし~~~~~^0^」
「そういやぁ、幾日か前に未来から変わった者が白装束で参りましてな。なにやら泊林研二郎という名でござった・・・」
「であるか、光秀。くるしゅうない、その者ワシの部屋に通すがよい・・・」
「ご尊顔を拝し、恐悦至極にぞんじたてまつりまつりっまつります~」
「であるか。戦国の言葉にまだ慣れとらんようであるな。おぬしのことは安土の城下でも有名じゃわい。泊林殿と言われたな?・・・」
「はははははぁはぁ・・・・」
「まぁ、そう堅くならずともよいではないか・・・。いったい未来で何をしでかしたのじゃ?大体のことは蘭丸とクロから聞いておるがな・・・」
「実は拙者の描いた、いや手配した意匠の品が、オランダ屋敷の家紋と同じだと言われましてな。真似したのではないかと・・・」
「であるか。未来の言葉でエンブレム。黙って真似したんだろう、そうなんだな・・・」
「いえいえそんなせっしょうな。拙者はやってはおりません。部下のものがやったのでござる・・・」
「おぬしのせいではないというのだな?」
「いかにも・・・・」
「そういえば、電博殿、森殿、武藤殿がおらぬが・・・、未来ではさぞ居ずらいであろうな」
「こんどこちらにお呼びいたす・・・」
「であるか・・・」
「おい、てめぇ、部下のせいにするとはどういうことだ。一心太助がだまっちぁね」
「太助殿、もう良いではないですか。プレゼンはハッキリ言ってハッタリなんですから。嘘ついて当たり前。新国立なんかハナからできるわけないんですよ。ゼネコンがからんでますからね。外国人排除。国民は知りませんけど、2020東京五輪は招致するべきでなかった。アベノミクスだって失敗なのに、円安操作のカブつり上げで日本は大混乱。座波殿には申し訳ないが・・・諦めてもらうしか。災害なんかよりも安保ですよ安保・・・」
「アベチャン、マァマァ、イインジャナイデスカ。ヒトノセイニスルノハ、イキテイクタメノホウベン。ウソダッタケド、ニセモノノ ビン・ラディンモカタズイタシ。ワタシモ、ノーベルダマシテ、ヘイワショウ、トッタデショウ。コトバヲウマクツカエバ、ナントカナルモンヨ。イエスウィキャン。アベチャンハ スッカリ ペンタゴンノケライ。オスプレイモ、F35ノソアクヒンデモ、カイトッテクレル。イイヤツダ・・・」
「であるか。オバマ殿、もうよいではないか。おぬしも人の事が言えまい。恥をしのんでも、雲隠れか。正直でよい。いい度胸だ・・・。わしの家来にならぬか?おぬしの無骨がほしいのじゃ。光秀じゃ軽くてやばいんじゃ・・・」
「いえ、それは・・・・。」
「であるか、未来のはしくれ殿には無理じゃったのう。許せ・・・」
「お屋形様、この猿めのことは・・・」
「もう考えておる・・・。踊れ踊れ・・・」
「安土城完成おめでとうございまする、親方さま・・・」
「であるか、堀北姫は土方殿とめおとになるのか?」
「はい、お殿様。私は土方様の心根がほしゅうございます。奥さんになりた~~い^0^」
「まきちゃんん、あんた、バカじゃねぇのか。交際期間ゼロでもええっちゅゆうのんか?俺にはついてくるな。ファンが泣くぞぇ。それじゃ、ほかの芸人とたいしてかわらねぇ。その根性、たたき直してやる。函館の五稜郭行く前に、この兼定で切ってやるぜ・・・」
「あれ~~~~~。とし様、お、おゆるしを・・・。それは覚悟のこと・・・」
「そうか、ならいい。これからは、気持を入れ替えてガンバ大阪、心の中は浦和レッズだ~~~。みんあ、じゃぁな・・・」
「何言ってやがる。偉そうに。ほんとに、あいつは、土方かい?・・・」
「人生いろいろ、役者もいろいろ、地上波デジタル利権もいろいろ、総選挙もいろいろ、格差社会もいろいろ、郵政もいろいろ、庶民の統制もいろいろ・・・。だまって、いればわからないんじゃないでしょうかね。アメリカさんのいわれるままにしておけばいいんです。郵政の資金は流す約束も果たせたし、保険も株もみんなオバマチャンにあげちゃおうかな・・・」
「おいおい、小泉がいまさらなんだよ・・・」
「Yes, you can。ニッポン ノ コクミン ダマシテ クレテ アリガトン・・・」
「TPP、アベノミクス、ゴシンパイナク。アベチャンガ、コクミンヲ ウマクダマシテ、ソフ ノブスケジイサマカラノ ヤクソク ハタシマス。ダカラ、ヤスクニハンホットイテンナ」
「てめぇはいいよねぇ。派閥にかくれて、自分の派閥肥やしちまってさ。景気が上向いてるってマスコミに指示したのはてめぇかい。ちっとも景気なんかよくねぇぞ~~~。八百八町の旦那も青息吐息、火の車だ。ほんとのこと言ったらどうだい?」
「それはご勘弁を・・・。(うるさい坊主だなぁ・・・)」
「なにを・・・・・・」
「聞こえた?」
「腹の底でいってるじゃねえか・・・」
「にげろ~~~~~」
「土方さんに追わせろ・・・」
「800年後にこのような、時代になるとは思わなかったぞ。美しき国はどこへいったのじゃ・・・」
「御曹司・・・・」
「弁慶ではないか。年末年始は多忙なのにご苦労なことじゃ。まつけんサンバは順調なのか?吉宗公は元気か?」
「だんなはたしか・・・・」
「余の顔を忘れたか・・・」
「忘れもしねぇ、最近若い娘を囲った・・・・」
「第一夫人なのだ。。。許せ・・・・」
「太助のマドンナだったんですぜ。幸せにしてくださいまし・・・」
「毘沙門天の化身なり~~~~」
「だれでぇ、あんた・・・」
「坊主、化け物に対して無礼である。わしは春日八郎の死んだはずだよオッかさんが好きなのじゃ。紅白には出ているのか。景虎はどこにいる・・」
「父上、違う違う。お富さんでござる。お久しぶりで御座る。今度大河ドラマにて共演でござるな・・・」
「みんなは前のGaktoがいいっていうとる。阿部寛じゃだめなんかい?」
「日光の一つ手前・・・」
「どういうことじゃ?」
「イマイチ(今市)」
「若いのにオヤジギャグが好きじゃのう。甲州夫人(菊姫)のこと頼んだぞ」
「景虎がもらってもいいんだ?歴史が変わりますよ。」
「わしが死んだら家督は景勝には渡さん。知ったことか。」
「案外無責任ですね~~~。どんと晴れのヒロインさんに叱られますよ」
「ど-でもいいんじゃないですか~~。そんなこと。信長さん、この時代には株売ってないんですか~?」
「であるか。堀江右衛門になにか株かNISAを売ってやれ。光秀にもだ。猿・・・試しに試食させよ・・・」
「お屋形様、あの株だけは・・・・」
「どうしてなのじゃ、わけを申してみよ・・・」
「本能寺のヘンな株でして・・・・」
「だから売るのじゃ・・・」
「・・・なるほど。そうすれば、お屋形様は生き延びられる、ということですね?」
「であるか・・・・・・・」

と言う具合に賑やかな宴なのだ。今では2020東京五輪の話で盛り上がっているらしい。安藤が先日そこから戻って来たばかりだ。



_____________________________________




第三章 1940-2020 歴史は繰り返す


<登場人物>

・僕:中山正輝
・僕の妻:恵理子(野猿系)
・僕の長女:千鶴(野猿系)
・同僚:船橋真吾(イケメン系:代表権のないくろくま広告社社長)
・船橋くんの妻:美智子夫人(ハイソ系:くろくま広告社会長<実質的な経営者>)
・船橋くんの娘:絶世の美女:みどり君
・銀座マネキン嬢(昼は銀座通りのマネキン嬢、夜は銀座のサロン嬢:ユキ、ナオミ、サトミ、ミキ他。全員国立大出身のインテリ)
・安土城天守閣での時空を超えた歴史上の人物の面々。
・美大の後輩:安藤(アートディレクター、ソラミミスト:今東光似の毒舌家)
・くろくま広告社元会長:広瀬弘文(美智子夫人の父)
・銀座の若旦那衆他
・霞ヶ関官僚、国会議員他
・その他随増殖・・・



<第三章:その一>


 インターネット上では、「幻の2020東京五輪」という題目で話題騒然となっているらしい。誰もが考えたくもないのがごく自然なのだが、時代の巡り合わせには逆らえない。
そうならないことを祈るばかりだが、ここまできたら、どうしたら大会返上の危機を乗り越えるかという、国民的論議も必要だろう。とにかく、大会組織の最高責任者がいないというのが最大のネックなのだ。それと、暗躍する大手広告会社の存在も無視できない。1940年東京招致成功をヒトラーとムソリーニの協力で得ていたが、日本が廬溝橋事件を皮切りに日中戦争を拡大させ、大会を返上。その後米国との戦争に突き進んでしまった。2020年東京大会も当時と状況が酷似していると言われている。1940メイン会場においては、当初月島の埋め立て地を提案したが、強風に耐えられないと却下、今の神宮界隈は住民の反対にあいこれもダメ、一年かかって七つほどの選定をしたが決まらず、IOCから批判が出たので、駒沢のゴルフ場跡地にメイン会場を決定。それが、今の駒沢のオリンピック総合公園になった。(1964年東京大会での第二会場ともなった。)今の新国立の騒動を見ていると、同じような状況であることが分かる。オリンピックは国家的なプロジェクトで、必ずイニシアティブをとる人が不可欠ではあるが、2020東京にはそれがない。困ったものである。加えて、ゼネコンやマスメディアの利権が入り込んでいるから、なおさら責任の所在がハッキリしない。東京都が招致したのだから、いま起きている新国立の白紙撤回やエンブレム騒動では石原前知事の責任は最も大きいだろうと見ている。現総理がプレゼンでの原発汚染水アンダーコントロール発言には政治的な意図もあったのだろう。ザハ案を完遂させるという発言の証拠も映像で残っているが、はたしてその責任はとれるのだろうか。しかし勝手に白紙撤回してしまった。エンブレもベルギーのデザイナーからのクレームでお蔵入り。僕と船橋と安藤の三人は2020の時代の証言者として諫言していかなければならない。信長氏の安土城には、歴史上の人物が時空を超えて遠慮なくやってくる、銀座マネキン嬢達の適確なアドバイスもある。全然役に立たない有識者会議など相手ではない。みどり君は都庁のオリンピック準備委員会で奮闘している。毎日タクシー帰りで、このところ生理も止まっているらしい。娘の千鶴はJSCの理事長が解任となり、すったもんだしている。体重もかなり落ちている。ここだけの話、落ちてもメタボな体型と野猿系のルックスは同じではあるが。みどり君の美しさとは雲泥の差は一生変わらない。イケメン系の僕に対する嫉妬も。船橋君と付き合いがある佐野氏は、いま安土城では、泊林研二郎という名で雲隠れしているらしい。



<第三章:その二>


 久しぶりに、今日は「ババ・ガンプ・シュリンプららぽーと豊洲」。船橋君が時折、くろくま広告社のOBである安藤と僕を連れて行ってくれる。月島駅から二つ目の駅だが、築地市場が近々移転するという噂もある。ババ・ガンプは映画「フォレストガンプ」に出演していた俳優が、プロデュースした店だが、古き良きアメリカのアットホームなレストランだ。そのうち船橋くんにも言うつもりだが、マネキン嬢や安土城の客もきてもらいたいものだ。ランチはないけれども、手作り感のあるサンドイッチやサラダなど素材はいたってシンプル。三人あつまると、世の中の出来事がカラクリで成立しているという見立てのもと、いつも賑やかになる。というより、騒がしい。
「安藤君しばらくだね。自営業も順調のようだね・・・」
「ほんま、ありがとさんです。先輩の中さんにもせわになってましてん・・・」
「安保、あっさり、通っちゃったね。ちがうだろ、これって感じ」
「しゃぁないでしょ、中さん。肝心の投票所いくのサボって、デモなんしてもあきまへん。無党派のひとはなーにもわかっっとらん。反対すんなら行動でせないかんでしょうに・・・」
「今度の選挙では、国民は黙っちゃいないね」
「そうでんがな。アベちゃんは、満州国で実権を握っていた爺さんの影におびえているんや。阿片王の里見とも親しかったしね・・・」
「戦前の同盟通信社、いまの電通とも根深い・・・」
「天皇と岸信介は絞首刑を上手く逃れたのも、アメリカと水面下での交渉があったことが想像出来るね」
「船橋君は鋭いねぇ・・・」
「日本の戦後の悲劇は、戦前の体制を形を変えてGHQが整えたことにあるんだ」
「ワシにはわからへん・・」
「戦争はいやだよね。やってもなんにもならないし」
「全て誠意ある外交だよ、外交・・・」
「なんか三人あつまると、変な党首会談みたいだな・・・」
「なんだってかまへんよ」
「新国立がまた密室で談合しているらしい。ザハ案ははじめから排除するらしいよ」
「エンブレム選考は入れ替えだが、音頭を取る側は変わらない」
「佐野君はもう同業の仕事は出来ないな」
「もともとあかんかった・・・。おにぎり屋さんなら繁盛か・・・」
「売れるかもね・・・」
「中さん、マドンナが来年スーパーアリーナに来るんだとよ」
「もういいよ。あの人はマンネリズムからの脱却をしないとね。そうしなければもう終わった。サプライズでもなきゃ、復権は難しい・・・」
「最近までぞっこんだったんだろ」
「浮気でもしてまんねんでっか・・・」
「そうではないけど、古典にもどったほうがいいとね」
「テイラーはいいよね。ワシの嫁さんにしたいくらいや。あのきつい眼差しがすきやねん・・」
「信長さんからの連絡。巣脳電氏が安土に行ったそうだよ・・・」
「プーチンさんが囲ってるンやないの・・・」
「たぶんね。今度911の事件と2011年ビン・ラディン殺害の真偽、アポロ計画の真実を信長さんに訴えるそうな・・・」
「現代ではないんか・・・。バラしたら、えらいことやで・・・」
「彼は歴史に波紋を起こして未来の流れを変えたいらしい・・・」
「プーチンも同じ考えか。そういや、2012年まで大統領やるから、国の統治も対米戦略も思いのままというわけやね・・・」
「そうなると、このままだと北方領土も2020東京五輪もやばくねぇ?」
「やばい、やばい・・・」
これが三人のなにげない結論。

 安土城の信長からの連絡によれば、巣脳電(スノーデン)氏という外国人が訪れているという知らせが来た。911の暴露とアポロ計画のウソを暴露するんだそうな。やはり、我らが三人行かないわけにはいくまい。



<第三章:その三>


 五輪の利権というのは、商業志向の基礎を築いた80年ロス五輪の頃からだろうか。開会式では空からロケットマンが逆噴射でスタジアムに舞い降りたのには、びっくりしたものだが、イベントのサプライズがメディアを驚かせ、放映権の利権にも波及して、今日まで至っている。IOCの半分は放映権料の実入りとなれば、なおのこと、商業化は進むことになる。開催は都市が基準にはなってはいるけれども、資金を出すのは国のほうとなるので、自ずと利権は派生する。2020東京の新国立競技場の建設では、コンペどおりに作らなければ意味が無い。当時の都知事である猪瀬氏もそう言っている。僕もそう思う。開閉式の屋根があり、キールアーチで、8万人規模、冷暖房付きでも、当初の予算で収まっていただろう。キールアーチの経費は250億円前後と言われていた。ところが、日本のゼネコンがどういう思惑で価格をつり上げたのかよくわからない。クーベルタン氏もさぞお嘆きだろう。ザハ女史も面食らっているようだ。世界の常識では、採用されたのに契約を勝手に解除された事実は五輪の歴史に汚点として残るだろう。史上最悪のメインスタジアムの誕生も夢ではない。かち割りや冷房グッズの配布では、到底無理だろう。第一来場者にも失礼だろうし、VIPにも比例極まる発想と言える。安倍氏は招致コンペでのザハ案を自信をもって支持している。白紙撤回したのは、単なる建設費だけの事ではないだろう。内閣の支持率がどんどん下がっている状況を打破するには、既成事実を作って、打って出た公算の可能性が強い。建設の高騰で国民の理解が得られていないという、勝手なふれこみで、ザハ案を白紙撤回。国民の理解とはどこで判断したかは良くわからない。開会式は駒沢オリンピック公園も視野に入れるべきだろう。
 JSCの理事が辞めさせられ、下村文部大臣も辞表を提出、エンブレム選考委員会も全員入れ替え。なぜ電通・博報堂ともあろうものが、イニシアティブを取るのをやめて、引き下がった理由もわからない。あの佐野五輪エンブレムの採用までの経緯が暴露され、広告代理店業界のイメージも悪化したように思う。残念なことだが、仕方があるまい。ここで、森氏や遠藤五輪担当も辞めるとなると、2020東京五輪は完全にアウト。このままいくとイスタンブールやマドリードでの代替開催の可能性はなきしもあらずだ。
 船橋君、安藤、僕達の三人は、企業や組織で動く周りから見れば、煙たくなる存在らしい。トップであれ地位の上下に関係なく、ずけずけ物を言う一種の性癖があるからだろうか。それはそれで仕方が無い。生きている内はこの時代の証言者とならなければならない。そして、僕たちの周りには、信長公を始め、マネキン嬢達の後押しもあるから心強い。よく考えてみると、今の自由民主党の本当の姿とは、こうではないはずだ。時の政権、今安倍氏が進めている色々な為政の状況は、めちゃくちゃな感じだ。世界からは冷やかな目で見られているし、その多くが違憲的な色彩が強い。いわば内閣の国民に対するクーデター的な行為と言えなくもない。その結果は、2016年の参議院改選もしくはW選挙で判明することだろう。それでも、無党派層や無関心層が投票所に行かず、低投票率で終えるとすれば、戦前の大政翼賛体制が強化され、2020五輪の行方はわからなくなる可能性は高い。僕たちにはそれが気がかりだ。もし、そうなれば、その責任は有権者自身にフィードバックして、その子供達は戦地にかり出され、悲惨な運命を背負うことになる。そうならないために、僕は自由民主党のリベラル派の台頭の必要性を説いている。憲法の自由気ままな解釈が横行すれば、日本は無法国家となり、為政者を監視するチャンスはなくなる。そのとき、僕たち日本人は悪夢の再来に覚悟を決めなければならない。
 安倍氏の国連での演説は、目を被うような内容で、諸外国からも冷笑されたに違いない。「エコノミック、エコノミック、エコノミック・・・」もう恥ずかしくて聴く気にもなれない。そう思うのは僕だけではないだろう。ますます日本が世界から孤立化を深める要因を増やすだけだ。オバマ大統領も彼に会おうとはしなかった。自己陶酔と自己否定を容認するような、トンチンカンな演説。日本の現状を無視した経済志向だらけの為政は
この三年間で30兆円のばらまき外交をしただけの、アベノミクスの失敗を招いただけ。大企業ばかりにしか利益に目を向けない。そこでおこぼれが出れば、中小へもという発想は、半世紀前のもの。庶民には廻っては来ない。電通も70年代の広告手法がマンネリズムと化し、広告枠の切り売り商法の様なもので、消費には結びつかない。佐野五輪エンブレム推進もおなじような発想でやるから無理がでる。TVも視聴率優先システムも大きな利権として残り、景気への足かせとなっている。景気が悪くなっているのに、日銀は緩やかな回復傾向にある?マイケルジョウダンにも程がある。アベノミクスは、増税をするための隠れ蓑。生活苦が世帯がどんどん増えるのに、ばらまき外交は増加の一途。小泉進次郞氏の政権まであと少し。石破氏では心もとない。谷垣氏はもう終わった。菅氏はミイラ取りがミイラになった。安倍氏は来年の参議院の大敗を待たずに、辞任する可能性は高い。
日本を戦前化させようとしても、国民の大多数や米国が黙ってはいない。一番良いのは日本国民のために、安倍氏が出来るだけ早く静養して引退することだろうか。手遅れにならないうちに。
 安土城にいる船橋君から連絡が入った。武蔵境から安藤と一緒に来てくれとのことだった。







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